クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ 感想

クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ (電撃文庫)
クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ (電撃文庫)
《Amazonからのあらすじ引用》
革命勢力「黄金の地平」の一員である少年ビスカラは、クロバンス王国を変えるために、命を省みず戦っていた。美しき指導者ラスカリナ、有能な同胞ベルナレット、頼りになる部下トルエノ、キネット・キトルなど…多くの少女たちとともに。理想、そして夢のために、少年少女たちは時代を走り抜ける。のちの歴史家は言う。「ビスカラは英雄だ」と。しかし、若きビスカラの前に広がっているのは、普通の人間では耐えられないような血塗られた道だった―。


2016年刊行のライトノベルで、私にとっては年間1位のライトノベルである

高村透先生の新作『クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ』の感想になります。


フランス革命をモチーフとした革命戦ものの物語なのですが、

粗筋にもあります通り、後の世に英雄と言われることとなる『ビスカラ』が

主人公なので、革命が行われることは物語上約束された未来なのです。

そのため、物語としては革命は成功するのか否かを主題としておらず、

いかにして主人公『ビスカラ』は革命を成し遂げたのかを主題としております。


ネタバレを含む感想も書いておりますが、ネタバレになる箇所には見出しで

【ネタバレありの感想】と書いてあります。

ネタバレなしの感想の方は、ネタバレを避けたい方、未読の方でも大丈夫ですよ。



ネタバレなしの感想



面白かったです!

上にも書きましたが私にとって今年度1番面白かった作品です。

なにが自分にとって面白かったのかを振り返って考えてみると、

以下の2点と、ネタバレ有の感想で触れる1点が面白いと思った理由ですね。

 ①戦記物として単純に面白い

 ②主人公『ビスカラ』が政治型の英雄である点



①戦記物としての『クロバンス戦記』が単純に面白いと思った理由は、

全知全能の登場人物はおらず、ご都合主義に感じなかったからです。

それぞれの陣営のそれぞれの人物が、自身の能力の範囲や立場で悪戦苦闘し、

各々が出来得ることをやっている姿に共感と面白さを感じましたね。

能力以上のことが出来ないため、登場人物たちに錯誤が産まれ

そのことから事件や転機が起こりますし、

同じ立場、志をもつとしても単純に一致団結して事に当たれないという

当たり前のことが当たり前に書かれているのは、意外と珍しいと思います。

私個人の勝手な感想ですが、同じ陣営だからといって全員が全員同じ様に動くのは

ちょっと全体主義的すぎて怖いなって思うんですよね。

大きな目標としては団結できたとしても、個々の人間としての目的はぶつかると思いますし、

それが原因で内紛やら相互嫌悪が起こるのが当たり前だろうと思います。

だから、昨今の軽い戦記物で主人公陣営が一致団結して、内部でもめ事や争いの種が

ない状態を見ると、ご都合主義に感じてしまいますね。


その点、『クロバンス戦記』では互いの陣営、同じ主義でも目指すべき未来の差、

組織内での権力争い、物語として作り出された悪役が存在しないという点で

他の戦記物と差別化されて私が面白く思ったんだと思います。


あと、各章ごとの扉に未来から見た人物が、革命戦を論評する文が記載されていたり、

ある出来事に対して未来の視点から事件や人物への評価などが挟まっていますので、

歴史的な出来事として物語を楽しむことが出来ます。

この辺は銀河英雄伝説など有名な戦記物でもある表現ですが、上手く使っていると思います。



もう一つ面白いと思った理由である、②主人公『ビスカラ』が政治型の英雄である点、

戦記物の主人公として多いのが個人的武勇が凄いか、軍隊指揮に特化しているなど、

軍人型の主人公が多い中で、主人公『ビスカラ』の本質が政治型なのが面白く感じました。


のちの英雄と言われる『ビスカラ』ですので、今巻でも軍事的な成功を積み重ねていますが

『ビスカラ』の本質は思想的な指導者であり、組織の運営者の方にあります。


革命期に求められるのは英雄であり、英雄とは政治的な成功だけではなく

世の流れを変えてくれるのじゃないかという空気を生み出すこと。

民衆とはその空気を生み出してくれるであろう英雄に従い戦っていきますが

世の流れを変えるという空気の分かりやすい成果こそ戦場での戦果になると思います。


主人公『ビスカラ』の本質は政治型であるため、

英雄に至るための戦果をあげるために苦戦苦闘をしていきます。

その苦戦苦闘に彼の魅力があると思います。

いかに苦境を脱するのか?

どのような作戦で圧倒的優位にある敵を倒すのか?

そこに至るまでの彼の苦戦苦悩を見ている分、

戦果を挙げたときにカタルシスを感じますね。



最初に書きましたが、私にとってこの『クロバンス戦記』は

2016年のライトノベルで最高に面白いと思っている作品です。

戦記物が好きな方に是非読んでもらいたい名作です。

この『クロバンス戦記』が埋もれたままなのが悲しいですし、

読んでもらってからネタバレの感想を語り合いたいと思っています。

未読の方は、ぜひぜひこの機会にこの名作を買って読んでいただければと思います。


既読の方、読むうえでネタバレとか気にしないぜって方は、

以下に書きますネタバレありの感想を読んでいただけましたら嬉しいです。





それでは、ここから下はネタバレありの感想になります。

クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ (電撃文庫)』のネタバレを見たくない方は、

ここでいったん引き返すことをお勧めします。





ネタバレ有りの感想



あらすじにも書かれていませんが、主人公『ビスカラ』には、特殊な力があります。

それは、【リテイク】という時間を巻き戻し、歴史をやり直す力です。

これだけ聞くと、上のネタバレなしで書いた感想で「全知全能の登場人物はおらず」と

書いてあるのは嘘じゃないかと言われるかもですが、そこまで都合のよい力ではありません。


時間を巻き戻すといっても事件の直前に戻るだけですし、

戻った時間で歴史を繰り返さないようにするのは自身の能力を使う必要があります。

そして、なによりこの力を使う制約となっているのが、【リテイク】を使うたびに

犠牲を払わなくてはならないという事です。

1回【リテイク】を使うたび、『ビスカラ』にとって大切に思う身近な人物を1人

『ビスカラ』が自らの手で殺さなければならないという制約が。


『ビスカラ』は多くの人民の幸福のため、【リテイク】を使い

そのたびに犠牲を払っています。

 好意を抱いていた女性
 
 実の父親
 
 そして自らを犠牲にしても守ろうとした女性を


【リテイク】の制約は、指導者が少数を犠牲とし問題解決を図ることへの戒めであり

切り捨てられることの痛みを指導者に味合わせることにあると記載されています。


ですが、英雄であり指導者でもある『ビスカラ』が【リテイク】のために支払ってきた犠牲は、

私人である『ビスカラ』にとって何よりも大事な人たちでありました。

【リテイク】の都度、私人『ビスカラ』を切り捨てて行った先に何が残るのでしょうか?

私人としての大切なものを持たない指導者が、独裁者となるであろう未来

その未来は大多数の人間のためという名目で多くの少数派が切り捨てられる絶望が

訪れる気がしてしかたありません。



今巻にして私人『ビスカラ』にとって大事な人は全て犠牲にされたよう思います。

続く続刊で【リテイク】を使った際の犠牲に上がるのは誰なのか?

『ビスカラ』に【リテイク】の能力を授けた『ウルディア』の目的と立場は何なのか?

『ビスカラ』も持つ英雄の因子とは?

英雄の因子が、首に紐の痕として浮き出る理由とは?

といった伏線、謎が解明されるのかと、どのような形で明らかになるのかが待ち遠しいです。


なにより、英雄となる『ビスカラ』がいかに革命戦争を勝ち抜く姿と

指導者から独裁者へ至る道のりを読みたくてたまりません!

電撃文庫を頼むから『クロバンス戦記』の続刊を刊行してください……

本当にお願いしますよ。



昨年から今年にかけて戦記物の新シリーズが結構でましたが、
こちらの『剣と炎のディアスフェルド』も面白かったですよ。

神話の時代と、ギリシア・ローマ時代の狭間にあるような世界で、
陣営をたがえた兄弟の相克を主題とした戦記物です。
兄側と弟側に物語が分かれており、両者の視点を入れ替えて進みます。
当事者側の視点と伝聞を伝え聞いた側の視点で、同じ事件がどう捉えられるのか?
といった点でも楽しめますね。
1巻の兄側の視点ではヘラクレスの試練のような冒険が痛快ですし、
弟側の視点では戦記物として内乱を如何に収め、
対外に備え団結していく統治ものとして楽しめますよ。
1巻の感想を近いうちに書きたいなって思います。
こちらは2月に2巻が刊行されます。
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