いまさら翼といわれても <古典部シリーズ> (角川書店単行本)感想

いまさら翼といわれても【電子特典付き】<「古典部」シリーズ> (角川書店単行本)
いまさら翼といわれても【電子特典付き】<「古典部」シリーズ> (角川書店単行本)

古典部シリーズの待望の新刊『いまさら翼といわれても』の感想になります。

ネタバレを含む感想を記載しますが、ネタバレになる前には注意書きをいれますので、

そこまでは未読の方が読んでいただいても大丈夫ですよ。


表題作の『いまさら翼といわれても』、

収録作のうちの2編『箱の中の欠落』、『わたしたちの伝説の一冊 』と

立て続けに短編が雑誌に掲載されたので期待していたのですが遂にでましたね!

今月には〈小市民〉シリーズの新作『巴里マカロンの謎』もミステリーズvol.80

掲載されますので、〈小市民〉シリーズの新刊も待ち遠しいですね。


今巻では高校2年生の5月から7月にかけての時期の物語となっています。

そのため前作『ふたりの距離の概算』のころの姿

ちょっと元気がなかった頃のえるに一部触れられていたりします。


収録作6作中3作は過去の事件についての話で、残り3作が現在の事件となっています。

過去の事件を通して奉太郎の信念・考えの根本が明らかになります。

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」

というモットーを持つにいたった理由が分かると、

奉太郎の優しさと真面目さが改めて実感できますね。


現在の事件を通して、古典部メンバー各自の未来への考えや

皆が未来へ踏み出し始めつつある姿が描かれることで、

高校時代というかけがえのない美しい時間を過ごしていることと、

そしてその時間が決して永遠ではないということに気付きつつある寂しさが

今巻の根底にあるテーマのように自分には感じられました。

作中にある 『時間が進むということぐらいとうにわかっていたはずなのに』

という言葉が、それを一番ストレートにあらわしているんじゃないかと思います。



自分は進路には悩まず流されるようにただ進学をしちゃいましたので、

まじめに自分の進路と向き合っている古典部の面々が眩しく見えますわ。

奉太郎はまだ休日から抜け出しそうというくらいなので、

進路の方向が定まっていなそうですが決めたら迷わなそうですけどね。



それでは、ここから下はネタバレ注意になります。

『いまさら翼と言われても』 の収録作のネタバレを含む感想を書いていきます。

未読の方や、ネタバレを見たくない方はここで引き返すことを推奨いたします。









箱の中の欠落



雑誌掲載時の感想は以下に記載しております。
箱の中の欠落 感想

再読したことで『時間が進むということぐらいとうにわかっていたはずなのに』

という言葉の意味と重みを気づいたような気がします。


改めて見直しても、奉太郎と里志の関係っていいなって思いますね。

普段べったりと付き合っているわけではないですが、

何か本当に困ったとき頼りたいときに相談できる相手であり、

相手が心から困っている時は助けることを苦にしない相手である

ってところに友情の厚さを感じますね。

こういった関係の人物が一人いるのと、誰もいないのとでは

人生の厚みも変わってきそうです。

自分の場合、誰かいるのかとちょっと考えてしまいました。

一応、何人かの友人の顔が浮かびましたので、

その相手からもそう思われてるといいなとちょっと考えちゃいました。



鏡には映らない



摩耶花が奉太郎のことを改めて見直す契機となった事件であり、

過去の摩耶花が奉太郎のことを低く評価していた理由の分かる事件でした。


いじめの一つとして軽い気持ちで行ったであろう悪意が自分に跳ね返ってきたことで

その悪意の重さに気づき泣き叫んでいた鷹栖には同情は全くできませんが、

気付いた時の驚きと、自分への悪意が延々と残る恐怖は想像するに難くないですね。


『わたし、折木くんはヒーローにしていたいの』って言葉からすると

里志の方は鳥羽麻美に嫌われてしまったんでしょうね。

嫌われた理由は仕返しの仕方を提案した時の内容なのかもしれないですね。

里志の提案した仕返しの内容が過激なことに反発したとも思えないので悩ましい。

鏡の前にデザインした人間のネームプレートを残すことで、

呪いの対象である「AMI T」が鷹栖亜美であると連想が容易になりますから。


あと、赤面した奉太郎は可愛かっただろうな。

鏡があればよかったのにという摩耶花の言葉は至言ですね!



連峰は晴れているか



教師が発した何気ない一言

その一言の本当の意味を確認するための事件です。


何気ない一言かもしれないが、その人間が発した時の気持ちを考えれば

その言葉の意味を誤解したままでいるのは我慢できないと考える奉太郎は、

本当の意味で相手の気持ちを思いやれる人間なんだと思います。


だからこそ、相手が本当に困っている時はモットーに反するように見えても

助けることが『やらなければならないこと』になるんでしょうね。



わたしたちの伝説の一冊



雑誌掲載時の感想は以下に記載しております。
わたしたちの伝説の一冊 感想

漫画を書くことを第一として漫画研究会を退部して、

河内亜也子先輩と組むことを決めた摩耶花。

漫画を描くこと以外にエネルギーを使わされていた漫画研究会に残る理由ないですからね。

2人が組んで作った同人誌が発売されている文化祭のシーンが早く見たいです。

組んだことによる作品への影響、エネルギーを描くことに集中したことでの成長など

2人の同人誌の出来栄えも楽しみです。


第十四回で同じ努力賞だった春閻魔さんが、第十五回で大賞をとっているから

自分が足りなかった悔しさと、きっと自分も出来るという思いになったのでしょうね。



長い休日



奉太郎が長い休日となった理由と、その休日から醒めつつある姿が描かれています。

長い休日とは折木姉は的確な表現をしますわ。


小学生時代の奉太郎が自身の優しさゆえにやっていたことが、

つけ込まれ馬鹿にされていたと気付いた時の悲しみはいかほどかと思えば

読んでいるこちらも悲しみを感じてしまいます。


奉太郎が人の気持ちを考える優しさと、人の気持ちを推察できる賢さをもっており、

更にはやることは真面目にやってしまう愚直さゆえに至ってしまった心境ですね。


長い休みのなか、中学時代の里志、高校で千反田 えると出会えたことが、

本来の奉太郎がもっていた気持ちが変わってしまう前に目覚められたんだと思います。


千反田 えると出会い奉太郎が長い休日から目覚めるキッカケとなったように

奉太郎との出会いが、進路への迷い悩んでいる千反田 えるが

迷い悩みから抜け出せる切っ掛けになると確信しています。


締めにある言葉の『きっと誰かが、あんたの休日を終わらせるはずだから』の

誰かは千反田 えるがまず筆頭にありますが、えると出会い関わってきた人物や

古典部の面々すべてが、その目覚めさせてくれる誰かなのでしょうね。



いまさら翼といわれても



表題作でもある中編です。

進路が固定されており自由がない分、迷うことがなかった千反田 えるが、

思いもよらぬ自由を得たことで迷い悩みが深まったことが原因の事件です。


生徒会長になるうと考えたのも後を継いだときに役に立つのならと考えるくらいに

生活、人生の中心だったものを急に好きにしてもいいと言われてしまうと

自分の根底が揺るぐくらいの衝撃でしょう。

必ずしも継がなくていいと言われても、自分の継ぎたくて継ぐのはいいと思うのですが、

言葉を真っ正直に受け取るのがえるの良いところでもあり、応用の利かないところの証ですね。



責任感が強く真面目な性格の千反田 えるだからこそ、

心を偽って歌うことは出来ず失踪してしまったわけですが

それでも会場に行こうと蔵の中で歌の練習をする姿は健気すぎるくらいですね。


そんな追い込まれたえるの所に奉太郎が駆けつける姿は胸が熱くなりますね。

「長い休日」で語られていた『ぼくがやらなきゃいけないことじゃなかったら、もうやらない。絶対に』

という言葉からすると、えるを迎えに行くことは『やらなきゃいけないこと』ではないです。

それでも、えるを迎えにいく奉太郎は、長い休日から醒めつつある証じゃないでしょうか。

長い休日から醒めつつある奉太郎が、えるが苦しんでいる時に駆けつけ

思いをくみ取り話を聞いたことで、えるのやり場のない苦しみも少し軽くなったはずです。


最後、えるが会場に向かったのか向かわなかったのかを明らかにせず

読者に任せる感じの余韻で物語は終わっております。

私個人の想いとしては、キツイときに自分の心を押しつぶして歌うことはない

会場に行くことは無いと思いますが、きっとえるは行ったのでしょうね。

責任感の強いえるだから奉太郎が来なくとも自分で決めて会場に向かったでしょうが、

奉太郎が来てくれて思いをくみ取ってくれたことで、気持ちが多少なりとも救われて

心を押しつぶしてまでいかずに会場に向かったはずです。

自分に嘘をつき心にもないことを歌うのは苦痛でしかないとは思いますが、

自分の心境を理解してくれている人がいて、その想いを共有してくれている人がいれば

苦痛だけでは決してないと思いますから。


次回作では、千反田の父親が何故後を継がなくてもいいと言ったのか?

その思いにいたる理由、謎が本筋にかかわってくるんじゃないかと思います。


とても気になるところで終わっているので、続刊が待ち遠しすぎる。

これでまた5年くらい待つとかきつすぎるので、新刊をはやくお願いしたいです。

米澤先生、ほんとうにおねがいしますよ。


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古典部シリーズに動きがあったように、小市民の短編が雑誌掲載ですよ!
秋期限定栗きんとん事件』で再び結ばれた二人のやり取りが楽しみです。
短編がまとまって『冬季限定スイーツの事件』で物語が完結するのか?
短編が順次掲載されていくのか?
今後の楽しみが続いていきそうですね。
ミステリーズ! vol.80
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