【ネタバレあり感想】〈古典部〉シリーズ わたしたちの伝説の一冊 (米澤穂信) (文芸カドカワ10月号)

文芸カドカワ 2016年10月号<文芸カドカワ>
文芸カドカワ 2016年10月号<文芸カドカワ>
《作品からのあらすじ引用》
漫画研究会が分裂の危機に陥った。

描いてみたい派と読むだけ派の対立は、

摩耶花を巻き込み加速していく―!


前回の箱の中の欠落』感想で触れましたが、文芸カドカワ(2016年10月号)に載っております

〈古典部〉シリーズ最新短編『わたしたちの伝説の一冊』の感想になります。

2ヶ月続けて続けて〈古典部〉シリーズの短編を読めるとは、思わぬ喜びですよ。

発売日の朝、起床して一番初めにKindle立ち上げて購入しましたわ(笑)



本作『わたしたちの伝説の一冊』は作中の時間で言いますと、

奉太郎たちが1年生2月から2年生5月の間の話です。

ですので、前月号の『箱の中の欠落』の1月前の話になりますね。

『ふたりの距離の概算』で触れられていた摩耶花が漫研をやめた経緯が本作に描かれています。

漫研の空気の悪さ、部員間でのいさかいは『クドリャフカの順番』でも描かれていましたが、

もう部員間の対立は収まらないところまで来ていて、読んでいてぎすぎす感がきつかったですわ。

自分にも経験はありますが、所属しているグループ内で二極化がおこると、

もう収まりがつかず分裂するしかなくなるくらい仲が悪くなりますよね。

自分の時はバドミントン部でしたが、部活でスポーツや部活仲間と楽しく過ごしたいエンジョイ勢と、

試合に勝ちたいしスポーツを真剣にやりたいガチ勢の溝は卒業するまで埋まりませんでした。



そんな漫研内の対立に巻き込まれてしまった摩耶花が、漫研をやめるに至った経緯と、

漫研での騒動の中で自分の立ち位置に気づき、先に向けての決意と行動をするということが

メインの物語なのでしょうね。

対立に至る経緯や部活内でのギスギス感に嫌な思いを抱いたりしましたが、

最終的な読後感が爽やかに思い、胸が熱くなったのは、最終章の2人のやり取りと想いが

前向きなものだからこそなんでしょうね。

『クドリャフカの順番』から始まった摩耶花と漫研とのいさかいはこの作品で一区切りがつき、

苦みこそ多少ありますが、摩耶花の漫画に対する思いには未来には明るい兆しがみえてきました。

〈古典部〉シリーズ続刊でも、この2人の漫画については引き続き語られてほしいですね!

タイトルにもある『わたしたちの伝説の一冊』は、今作を読んだ人なら納得のタイトルでしょうね!!

伝説の一冊のタイトルが現れたときの興奮は、ネタバレを踏んでしまうと楽しめないと思いますので

〈古典部〉シリーズファンの方なら、ぜひぜひ早めに本作『わたしたちの伝説の一冊』を読んでください!!









さて、ここから下は、『わたしたちの伝説の一冊』のネタバレを含む感想になります。

上のネタバレなしの感想で記載した通り、ぜひネタバレを踏んでから今作を読んでいただきたいので、

まだ未読の方は、ここで引き返すことをお勧めいたします。





伝説の一冊である「夕べには骸に」の名前が出てきたときは興奮しましたわ!

河内先輩の口から「夕べには骸に」の名前が出てきたときにやっとタイトルの意味を察することができました。

摩耶花にとっても河内先輩にとっても「夕べには骸に」は、漫画家人生に影響を与えた伝説の本ですものね。

「私の」ではなく、『「私たちの」伝説の一冊』なら「夕べには骸に」ですよね。

河内先輩が出たときには気づかなくてはいけないのに、私はタイトルの意味に気づけませんでした。

そんな自分の察しの悪さが嫌になりますわ。


終章の河内先輩と摩耶花のやり取りはいいですよね。

摩耶花の才能を認め、漫研で時間を浪費するなと迫ってくる河内先輩の姿は

河内先輩自身が語っているように、漫研で浪費した時間を後悔しているからこそなんでしょうね。

摩耶花の才能を認め、自分の才能も認めているからこそ、共に歩もうと誘ってくる姿がカッコいいですわ。

河内先輩の真意、気持ちが伝わってくるところに、胸が熱くなるんだろうな。

「わたしたちはもっと上手くなる」、「へたくそだけど上手になりたい」という決意の言葉は、

周りに気を遣い自分の書きたいものを我慢していた摩耶花にとって、大きな転機になる言葉でしたね。

摩耶花と河内先輩が組んで作るあらたな『伝説の一冊』が、文化祭で売られるシーンは凄くみたいです。

2年生の文化祭を舞台とした作品の発表を今から心待ちにして、11月の単行本を楽しもうと思います。





って<古典部>シリーズなのに推理とか謎解きの話を全く触れていなかった(笑)

もちろん〈古典部〉シリーズですので本作にも推理要素は出てきます!

ただ、上での感想の通り本作では推理がメイン要素ではなく、摩耶花の話がメインですので

推理自体はあっさり風味でしたね。

探偵役の奉太郎の出番も限られていましたし、奉太郎が推理辞退していませんので。

ただ、謎を解くときの観点として奉太郎の中学時代の読書感想文が活躍していますので、

そういう意味では今作でも奉太郎は凄いですな。

中学生時代から奉太郎の独自の視点と考察力は凄いですわ。あの力を自分も欲しい(笑)

今作の推理は「ホワイダニット」(なぜやったのか?)の部分がメインですが、ちょっと無理はありますね。

そこについては終章にある河内先輩とのシーンで明らかになりますが、そういった経緯なら無理があるのもしかたないかな。

といった感じで推理物として読むより、青春もの成長物として読んだ方が楽しめると思います。


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『わたしたちの伝説の一冊』を読むと、この『クドリャフカの順番』を読み直したくなりますね。
<古典部>シリーズが人気作となった転換点とも言える一冊だと思います。
他者への期待とその期待に応えてもらえない場合の失望感、自身の才能への渇望といった苦みと
文化祭の楽しさが伝わる描写が対比をしていて、ただ楽しいだけではなく苦みを感じる名作です。
クドリャフカの順番<「古典部」シリーズ> (角川文庫)


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